都市における農業体験農園の経営戦略 後編(3/3)

前回は、体験農園の収益性を高めるための経営戦略の大枠についてお話をしてきました。
今回は、体験農園の利用者のニーズの分類や変化、それらに伴う戦略について話をしていきます。
体験農園にはどんなニーズがあるか
マーケティングの神様と言われるP・F・ドラッガーはマーケティングにおいて
『顧客は誰か』
を定義すること強く勧めています。
体験農園でも同じように顧客層を想定してどのようなニーズがあるのかを考える必要があります。

まずはどのような方々が利用されているか。
小さな子どもさんがいるご家族、こどもささんが来ないご家族、高齢のご夫婦、友人同士でやっている仲間、お一人で来ている方などのパターンに分かれます。
属性によってある程度のニーズの予測ができますが、表面的なニーズになりがちです。
そこで、利用者との直接の会話をしながら、どういったニーズがあるかを確認しています。
体験農園に入るニーズ(悩み)として
『農業はやってみたいけど、全くやったことがなく始めるには不安』
という部分があります。
市民農園や貸農園など、自分で自由にメリットがある反面、やってみてできないことが多いという人達も意外と多いため、一定の割合で上記のニーズが存在します。
そこが体験農園の基本的なニーズになります。
次に体験農園を継続していくと出てくる課題として
【毎年同じものを栽培することに飽きて、自分で好きな物を作りたくなる】
というニーズが3年目ごろからは芽生えてきます。

これはしっかりと運営すればするほど、利用者の間で起き
結果として、別の農園に流れてしまうとジレンマを抱えます。
このジレンマの対策としては
・途中で退会してもらうことを前提に、初心者向けの人達の集客を特化し続け得る
・利用者のニーズに沿えるように、品目を増やす
・より栽培に関する知識や体験を学んでもらうようなサービスの追加
などになると思います。
ちなみに自社では、基本的なタネや苗などの品種を増やし、栽培に関するコンテンツなどを用意しています。
さらにいくつかのニーズに分けて農園の運営を始めました。
詳細については検証中のため、また別の機会にお話をしたいと思います。
以上のように
体験農園では、熟練度によるニーズの変化を前提に、戦略を作りこんでおく必要があります。
あとは個別のニーズが存在しています。
例えば、お子さんがいれば、こどもが農業や土を触れることで楽しんでもらうことがニーズになるため、こどもが遊べる空間を作ってあげることも継続につながるでしょう。
現在、自社の体験農園では、牧場との関わりもあり、農園のとなりに牛、羊、ヤギと触れ合える環境があります。この点も継続する一つの理由になっています。

また、体験農園の利用者どうしのつながりで継続する理由になることもあります。
そのため、畑でゆっくり会話や食事ができる場所などや利用者同士の交流会を設ける事ができれば、つながりができ、辞めない理由にもなるかと思います。
あと、最近多いにニーズとして感じるのは、国際情勢の変化により食糧危機が叫ばれる影響で、自給自足ができるようになりたいというニーズも数名から聞くことができました。
そういった面を全面に出す運営やコンテンツを作ってもよいかもしれません。
以上のように個別のニーズについては、すべての人に該当するわけではないので、農園の強みや全体のニーズの割合によって使い分けてよいかなと思います。
体験農園を始めるべきか
改めて、話を最初に戻したいと思います。
都市部の農地については、体験農園として運営できる可能性が充分あると考えています。
ただ、開設、運営にあたっての設備、人材、ノウハウ、マーケティング戦略などの条件を満たす必要があります。
これらの条件は、ビニールハウス栽培や観光農園など行うよりもハードルが低く、比較的始めやすいスキームでもあります。
ただ、条件を満たさない場合もあるので、よりコストがかからない市民農園や貸農園の運営もありえます。
実際に私たちの周辺の畑でも貸農園が増えてきています。
正直、市民農園や貸農園の方が、楽で始めやすいのは確かです。
しかし、個人的には体験農園をおススメしています。
実際、体験農園の運営に、とてもやりがいを感じています。
一から栽培し収穫するまでのプロセスを提供することで、利用者の方々にとても喜ばれ、こどもたちが畑で楽しく遊んでいることも見ると、いつも癒されます。
ストレスも少なく、おしゃべりをしながら事業が運営できる。
東京で、こんな素敵な仕事があるとは思ってもみませんでした。
今からサラリーマンに戻りたいと一切思いません。
貸農園も市民農園も遊休農地を活かすための大事な方法ですが、まずは体験農園などを通じて農業に対する理解や熟練度が高い一般市民の方を増やすべきではと考えています。
実際に、私たちが住む八王子周辺には、遊休農地が増えてきており、一部、市民の方が利用できるような法整備も整いつつありますが、まだ、利用する側の熟練度も低いため、再び利用されなくなるパターンも多く存在します。
農業をやりたい人と遊休農地のマッチング機能が大事だと言われながらも
それと同時に
遊休農地をうまく活用できる人材を育成する機能も同時に作る必要を感じています。
そして、その役割を体験農園が持つ可能性を秘めています。
遊休農地の活用をお考えの方は、ぜひ検討してみてください!

今回は以上です。
最後は収益性や農業経営の面ではなく、社会的な面での意見でしたが、今後さらに遊休農地が増えていくことが予想されるため、体験農園という事業は大きなトレンドになると確信しています。
今回は体験農園の経営についての詳細は長くなるため割愛しましたが、体験農園の設立のサポートや研修事業の中では話していますので、興味のある方はぜひご連絡くださいませ。
【文責 一般社団法人畑会 代表 山田正勝】