コラム

対談シリーズ vol.03[後編]
ひよどり山ファーマーズクラブが語る、
都市農業と里山教育の交差点
今井海太郎 × 大橋巧 × ふなき翔平

ふなき翔平が、いま話を聞きたい人を訪ねる対談シリーズ。第三弾の相手は、八王子で農の新しいかたちを探る今井海太郎さんと大橋巧さん。学生団体の立ち上げ、世界各地での修行など、それぞれの原点を経て、いま3人は「ひよどり山ファーマーズクラブ」として活動をスタート。都市農業、里山教育、仲間づくり──交差する視点から、ひよどり山の未来を描いていきます。

今井海太郎さんについて

今井海太郎さん(いまい かいたろう)
桜美林大学在学中に専攻の環境学で『農業の多面的機能』に共感し、食糧生産以外の可能性を模索する。ネットの記事で舩木さんを知り、連絡して会いに行く。農業と若者を繋げる学生団体を立ち上げ、舩木さんの協力してもらい学内外で農業イベントを行う。環境学を学び、農業に触れる活動の中で、『自然に良いエネルギーと農業をミックスしたビジネス』に興味を持ち、電気工事の道に進む。以降も舩木さんとの親交を深め、「エネルギー×農業」「都市×農業」この2つを念頭に置き仲間集めをする。現在はひよどり山にて新たな概念『里山教育』の道を模索中。

大橋巧さんについて

大橋巧さん(おおはし たくみ)
中学生から本格的に農業へ憧れ、東京都立農業高等学校、東京農業大学に進学。在学中は農業にのめり込み、国内は北海道から沖縄まで、国外は20か国の計100軒以上の農家を訪ね、各地の多種多様な農法の知識を得る。卒業後は愛媛県で50年の歴史がある「株式会社無茶々園」で野菜と柑橘の有機栽培に携わる。半生を農業に費やしてきた八王子が生んだ農業人。現在は地元八王子で資源循環型農業、栄養価が高く身体においしい食の生産、畑と人をより身近にする体験型農園をビジョンとして、人と地球に優しい農業を行う。

(前編はこちらをご覧ください)

子どもと畑、何を持ち帰ってほしいか

ふなき翔平(以下、ふなき)
「子ども会」の活動って、コロナ以降ぐっとむずかしくなってきてるよね。もともと子ども会は、地域の子どもたちに遊びや行事、体験の場を届ける大事な仕組みだったんだけど、子どもの数も減ってるし、共働きも増えて、続けるのが本当に大変になってきてる。結局「やってくれる人」がいないと遊ぶ場も体験の場も成り立たない。だから、畑を子どもや親が安心して入れる体験のフィールドにしたいと考えていて。来てもらったときに「おいしかった」で終わるのもいいけど、もう一歩先に、どんな気づきや体験を持ち帰ってもらえたらいいと思う?

大橋巧(以下、大橋)
畑で採ったものをその場で食べて、子どもが「おいしい!」って笑う瞬間がもう最高で。あの笑顔が、子どもひとりひとりの次の関心につながっていけばいいなって思いますね。

ふなき
印象に残ってる反応ってある?

大橋
玉ねぎよりダンゴムシに夢中な子がいました(笑)。畑にはいろんな体験がありますよね。入り口はどこでもいいんだなと。

ふなき
その子、将来“虫博士”になるかもしれないね。

今井海太郎(以下、今井)
僕はまだ「自分が農とどう関わるか」を探している最中なんですけど、誰かを畑に連れてくると、必ずみんな「なんかいいよね!」って言うんです。畑の緑や土の匂い、作物の成長していく姿、そういうものに触れて自然と口から出る「いいね」なんだと思います。でも、その「なんか」の正体を、僕自身がまだちゃんと言葉にできていない。そこが今の課題。

ふなきさんを見ていると、人が自然と畑に集まってきて、気づけば楽しそうな空気が生まれている。その姿を近くで学びながら、自分も「なんかいいよね」と感じてもらえる瞬間を子どもや大人に渡せる人になりたいんですよね。

ふなき
その「なんかいいよね」の正体って、きっと世代ごとに違うんだと思う。保育園の子は畑で虫を追いかけて夢中になるし、小学生は自分で抜いた大根を誇らしげに抱えて帰る。中学生になれば「これって仕事になるの?」なんて現実的なことを聞いてくるし、大学生は環境や社会とのつながりを考えたりもする。

そうやって同じ畑でも、見る人の年齢や立場によって「いいね」の中身が変わっていく。その反応を一つひとつ受け止めながら、一緒に答えを探していくのが、僕らの役割なんじゃないかなと思うんだよね。

「ひよどり山ファーマーズクラブ」はまだ始まったばかり。ぼくらの畑に近所の保育園の子どもたちも来てくれたし、今年は地元の子ども会や、ひよどり山中学校の生徒たちも来る予定。今から楽しみだね。

「売る」だけじゃない、農業をサービスに

ふなき
八王子の外に出ると、農地ってヘクタール単位でめちゃ広いんだよね。八王子は都市型農業の規模感だからさ。経営のこと考えると「このやり方で本当にいいのかな」って悩む時期もあったよ。新規就農して5年後くらいから「野菜をつくって売る」だけじゃなくて、農業そのものをサービスとして全面に見せていこう、って切り替えたんだよね。それは、都市農業の強みだと思ったから

ただ「一緒に農業やろう!」って声をかけても、なかなか仲間を集めるのは簡単じゃない。農業経営もどうやって続けていくかはずっと試行錯誤してきた感じかな。

大橋
僕は中学で進路を決めるときから、ずっと農業が頭にあったんです。で、大学を出て新卒で農家になって、最初は愛媛でみかんを始めたんですけど…1年目の夏に西日本豪雨で畑が一気に流されちゃって。始めて3か月くらいで、毎日がほんとに楽しくて仕方ない時期だったから、あれは本当に絶望しましたね。みかんって一度流されたら植え直しても収穫まで4~5年かかるので、「この先どうすんだろう」って、真っ暗になった。

でも、その状況の中でおじいちゃんおばあちゃん農家が黙々と片付けて、新しい苗を植えていくんですよ。その姿を見て胸を打たれて、「こういう背中を若い人に見せられる農家になりたいな」って思ったんです。あのときが一番「辞めたい」と思った瞬間でもあり、一番「続けたい」と思った瞬間でもありました。

ふなき
それはきつかったね。そこで「続けたい」って気持ちが芽生えるのがすごいと思う。農業ってやっぱり覚悟がいるし、災害のリスクと隣り合わせだからこそ、背中で見せてくれる人の存在は大きいよね。八王子はまだ大きな被害は少ないけど、最近は線状降水帯の豪雨も増えてるし、どこでも可能性はあるよね。備えも含めて考えないといけない時代だと思う。

かいたろうはどう? 辞めたいって思ったこと、ある?

今井
「農業で生産していくぞ!」っていうよりは、人を呼び込んでイベントをやったり、農業の良さを伝えたりすることに興味があるんです。珍しい野菜を育てたいとか、水耕栽培やアクアポニックス、有機栽培や自然農法にも挑戦したい気持ちは山ほどあるけど…正直、一人じゃ絶対無理なんですよ。だから最初にやるべきは「仲間集め」でした。今もまだ途中ですけど、ここで出会った人たちが一緒に夢を運んでくれてるのは本当に心強い。

副業しながら夜勤明けで畑に来る日もあって、「もうダメかも」って思うこともあります。でも、暑い中で大橋さんが黙々と作業してる姿を見ると、「自分も負けてられない」ってスイッチが入るんです。続けられてる理由は、間違いなく仲間の存在だと思います。

里山教育というキーワード

ふなき
ひよどり山で大事にしているのは「里山教育」。畑の隣には「小宮公園」があって、水源を守ってきた歴史がある。東京都は昔から奥多摩の水源林を買い取って大切にしてきたし、このあたりも本当は宅地になるはずだった土地が結果的に残されたんだよね。偶然じゃなくて、誰かが守ろうとして受け継がれてきた場所だと思う。

じゃあ地元の僕らは、この場所を“現代の里山”としてどう守っていくのか。そこに営みが必要で、その要になるのが農業と教育だと思っている。デジタルが当たり前の時代になったからこそ、自分たちでルールを決めて使う里山の空間で、手と体を動かす経験が価値になる。創造性って、そういうところから芽が出るんじゃないかな。

この畑や提供する体験においても「里山」を表現したいと思ってる。

大橋
僕は子どもの頃から自然や環境保全に関心があって、農業を選んだ理由もそこなんです。農業って環境に負荷をかける面もあるけど、その負荷をできるだけ減らして持続可能にしていきたい。

都市農業って面積は小さいけど、人が多いエリアだからこそインパクトは大きいと思うんですよ。収穫体験なんて、究極の地産地消です。その場で食べて、持ち帰って食べる。しかも地域の落ち葉や学校給食の米ぬかを畑に戻して堆肥化すれば、物質循環ができる。10年かけてそういう仕組みを整えていけば、環境負荷もゴミも確実に減らせると思うんです。僕はその循環のハブになりたいですね。

ふなき
いいね。物質循環を進めていくと、必然的に人との関わりも増えるよね。公園や精米所、学校と打ち合わせしたり、顔を合わせて一緒にやっていく。そういうプロセス自体が、もう教育そのものだと思う。

今井
大学で「オオカミを駆除したらネズミが増えて、疫病で街が滅んだ」って話を聞いたことがあるんです。人間が「使いこなせないもの」を排除すると、生態系って一気に崩れてしまうんですよね。

今の時代、農業や里山も“使いこなせないもの”として、切り捨てられそうになってる危機感があるんです。だからこそ、ここに人を呼んで「なぜ必要なのか」を伝える場が必要だと思ってます。物質循環や有機農業の価値も、知られなければ選ばれないし。僕はこのひよどり山で、その価値を伝える「伝道者」になりたいと思ってます。

味のデザインと、クラブという器

ふなき
子どもの頃の体験って、本当に残るよね。幼稚園のときのサツマイモ掘りの記憶、いまだに鮮明だもん。そういう体験が原動力になるんだと思う。ここで育った野菜を「どう食べようかな」って考える時間も贅沢だし、ひとりで黙々と畑をいじるのも楽しい。

大橋
わかります。僕も子どもの収穫体験を見ていて、「これがきっかけになるんだろうな」と思うことがあります。有機栽培で育てると、味まで変えられるんですよ。土づくり次第で甘みも香りも変わる。「味をどう育てるか」まで考えられる。僕はそれを「味のデザイン」って呼んでいます。食べた人が「おいしい!」って笑顔になる瞬間が、一番のやりがいですね。

ふなき
いいね、味のデザイン! おいしいは正義だし、笑顔の一番の近道だよね。子どもが笑えば周りも嬉しいし、そこでまた次につながる。

今井
その「つながる」ってところが大事だと思うんです。だからファーマーズクラブという器がいいんですよ。自分の「やりたい」を持ち寄って、このフィールドで形にしていける。根っこには「自然や農業の良さを伝えたい」っていう共通の思いがあって、それを表現できる場にしたい。

ふなき
なるほどね。たしかに「おいしい」や「楽しい」が入り口になって、そこから広がるのがファーマーズクラブなんだな。最初は頭の中のイメージを絵にして、人に見せて回ったんだ。現場に来るのは一部の人たちでも、そこで火がつく人は必ずいる。名前を「ひよどり山ファーマーズクラブ」にしたのも、農家に限らず関わりたい人を受け入れられるようにしたんだよね。

大橋
そこに、自分の経験も重ねてみたいですね。愛媛で学んだみかん栽培を八王子でも活かして、オーナー制や観光農園にできたら面白いし、農地全体の保全にもつながる。ここなら実現できそうだと感じてます。

今井
「人を呼ぶ仕組み」をもっと増やしたいですよね。専門性が必要なことも多いけど、外注するより「仲間」として迎えたい。

ふなき
そうだね。大橋くんやかいたろうのように、妄想レベルからキャッチボールできる仲間がいるのは本当にありがたい。「ひよどり山ファーマーズクラブ」は、まだまだ始まったばかりで、これから形にしていく途中。仲間がもっと必要だし、できることは山ほどある。「途中」だからこそ面白いし余白がある。ひよどり山には、農業のことを学びたい人も、自然に触れたい人も、ただ遊びに来たい人も、誰でも入ってこられる余地がある。

色々な人にぜひ一度、ひよどり山の畑の匂いや空気を感じてもらいたい。「なんかいいよね」って、きっと体でわかると思うから。その「なんか」を一緒に探してくれる仲間が増えたら、ファーマーズクラブはもっと豊かになっていくと思う。