コラム

都市の花き農家の経営の難しさと戦略

更新日:2024年12月27日

先日、舩木や研修生とともに八王子の花農家、栄花園さんに見学してきました。
私たちは主に野菜を作っていますが、花については門外漢であるため勉強のため伺わせていただきました。
ちなみに、花農家を農業界では「花き(かき)農家」と言います。

栄花園さんについて

すみれの花栄園は、元八王子町にあり高尾山にも近い場所にあります。
農園主は小川賢治さん。

栄花園のHPより

代々続く農家で、ご祖父の時代はお米農家。
お父様が時代に合わせて花き農家になったとのこと。
当時は、すみれを中心に栽培して市場に出荷していったそでうで、日本一のすみれ生産農家でもあったそうです。

栄花園のHPより

その後、高度成長期とともに花き業界でも競争が激化。
今ではすみれの栽培は行っておらず、農園兼販売所を見学するとビオラやパンジーを中心にいろんな花を栽培されていました。
花販売は大きく分けて、切花と鉢花があり、栄花園では鉢花を販売しています。

シクラメンなどの売れ筋の花は一部仕入をしているようです。

また花以外にも一部、野菜の苗も作っており、一定の割合で売れるそうです。

花き農家の経営の3つの難しさ

小川さんに現在の経営状態を伺いました。
主に3つあると感じました。
①    各資材代の高騰
他の分野の農家も実感しているところですが、資材代の高騰に頭を悩まされていました。
タネ、苗、土、肥料代など軒並み値上がりをしていること。
以前は暖房を使って花を栽培していることもあったそうですが、灯油が高くなりすぎて価格に転嫁できずに止められたそうです。
さらにそれに追い打ちをかけるように近年の夏の猛暑続き。
野菜もそうでしたが、秋冬に販売する予定の花の芽がなかなかでてこないこともあったそうです。
成育不良のものも多く、海外から効き目のよい肥料を使うことで乗り越えたとおっしゃいました。ただ、その肥料が海外の仕入であるために、円安の影響を強く受け高価になっており、さらに手痛い負担を抱えておられました。
そしてさらに追い打ちとして、今年の夏に雹が栄花園のビニールハウスを襲いました。
ビニールの屋根は、穴が空き保温効果が減退してしまいました。
設備投資の資金もすぐに確保できず、そのままに状態にしておかなければいけない状況でした。
②    人材不足
これもどの業界でも同じ話ですが
運営スタッフは、基本一人でお母さまがお手伝いをされています。
援農の方は週3回来られておりますが、全体的に作業が追い付かないことがあるようです。
花きだと、体力的に大変な作業がないようなイメージですが、聞いてみると水やりや土を運ぶことなどかなり体力を使うようで、正直男手が求められるところもあり、女性に興味がある花きですが、現場では男性人材のニーズのギャンプが見え隠れしています。
本来、雇用したいそうですが、経営状況を見る限り雇用するのは難しいところ。
③    マーケット層の減少
長期的に見て花を買う人が減ることが見込まれているそうです。
栄花園のメインの顧客層は60代女性で男性ほぼなし。
年齢を重ねて80代ぐらいなると、庭の手入れもできないぐらいに身体の衰えがでてくるそうで農園に訪れる方が減っていくとのことです。
新しい顧客層が入ってこない為、世代交代ができず、固定客が確実に減っていくことが見えているそうです。
 
以上が3つの難しさです。
栄花園さんの努力次第で変えられる所もあるとは思いますが、やはり環境変化の激しさに適応するのは至難の業だと感じます。

都市部の花農家の経営戦略

ここからは栄花園さんの話と言うよりは私の持論になります。
都市部における花き農家の戦略はどれが最適解か。
正解という表現ではなく、最適解という表現をしたのは、花き生産をする農家さんの特性や強みによって、多少形が変わってくるからです。
ただ、基本戦略としてあげるのは
「いつも身近に花のある豊かな生活」を提供することをテーマとして花きやサービスを提供できるかということです。
まずは、花き農家自らが空間づくりのお手本になる必要があります。
農園に行くと、庭にいろんな種類の花が咲き誇り、色とりどりの世界が拡がっている。

そして、そんな空間でお茶会やアフタヌーンティーが定期的に開催される。

そんな日常的に穏やかで豊かな空間を作りながら、まず自分自身がリラックスして楽しむ。
そこから楽しむことが個人的には大事なことだと思います。
それをベースにして、見せ方を販売より体験を中心とした形で進め、いろんなワークショップをしたついでに花や関連の商品を買ってもらうような流れを作り、一人当たりの単価を上げていきます。
そこから関係性を深めながら、普段から気軽来てもらえるような会員制のサービスを作ります。
サービスは、いつでもきれいな花の庭園に来て花を眺めながら、採れたてのフレッシュハーブティーを作り、スイーツを持参してゆっくり仲間で交流できること。また、毎月、季節の花々をワークショップした上で花を持って帰ってらもい自宅でも楽しめるにすることで継続して来てくれる仕組みを作るなどの戦略が効果的だと思います。
お客さんをファン化すること、そしてそれをコミュニティ化すること。
そうすることで、花の価格競争に巻き込まれずに、安定した収益を生み出すことができるのが、都市部かつ小規模でできる基本戦略です。
あくまでも花という「商品」ではなく、花を通じた【豊かなライフスタイル】を提供することを意識することで、大きく経営は変わると思います。
 
実際に小川さん自身、唯一の国家資格である一級フラワー装飾技能士、職業訓練指導要員の免許、一級カラーデザインの資格や色彩検定を持っており、ギャザリングデザイナーという肩書もお持ちです。
小川さんは、実力的に申し分ない方でもあります。
そういった点もふまえても、私が思う戦略とも相性がいいと勝手に思っています。
余計なお世話ですが、ひとつの参考にしていただければと思っています。

都市農家同士の交流こそが、都市農業の底上げになる

と、ここまで相手の立場や状況を鑑みず、散々勝手な戦略をお伝えしました。
私の立場上、様々な農家へ訪問し、何かしらの戦略論やアドバイスを語ることができますが、求められない限り話すことはありません。
仮に戦略的な話をすることあったとしても、抱えている事情やモチベーションも違うため、実行することはまた別の問題になり、机上の空論になりがちです。
表面的な改善にならず根本的に改善するアプローチとしては
農家同士でつながっていくことが大事だと考えています。
それは遠回りのように見えて結果的には近道です。
東京には、新規就農者を中心にした東京ネオファーマーズというつながりがあります。
基本的に月に1度、交流会を行い、自分達の現状や目標や夢を語り合える場所です。
こういった機会を通じて、それぞれの新規就農者が刺激を受け、日々の農業経営に取り組むことができるといえます。
ただ今回、訪れた小川さんは、親元就農で新規就農者ではありません。
そのため、新規就農者のような集まりの機会が少なく、活発な議論や刺激を受ける事が少ないです。
もちろん、JAの青壮年部などのつながりはありますが、地域によっては飲み会だけの場や同世代で話すことが少ないことも確かです。
そういったことも踏まえて、やはり八王子もしくは多摩地域で、新規親元、年齢など関係なく農業経営をよりよくしていきたい人達向けの交流会や勉強会を進めていく必要があると感じています。
もちろん、誰がそれを集めて、ひっぱっていけるかというような課題はありますが、東京の、八王子の農家や農地を残すためにも、そういった動きを模索していく必要があります。
いわゆるムーブメントといわれる活動です。
派手ではないけれど、地道で確実に前に進むために、長期的視野に立ったムーブメントを私たちで進めてみたいと思います。
 
(蛇足)
栄花園さんで買ったビオラをプランターに植え替え、うちの農園に置いてみました。
私たちの畑も来年から少しずつガーデニングも取り入れていく予定です!

【文責 一般社団法人畑会 代表 山田正勝】