コラム

対談シリーズ vol.01
ホップと桑の実が拓く八王子の未来。
島村悟 × ふなき翔平

更新日:2024年12月13日

ふなき翔平が、いま話を聞きたい人を尋ねる対談シリーズ。記念すべき第一弾は、「八王子クラフトリキュール」の島村悟さんです。

八王子の未来を見据えた挑戦として始まったクラフトビールとクラフトリキュールのプロジェクト。その名も「八王子ホッププロジェクト」。偶然の出会いから生まれた島村悟さんとのコラボレーションは、八王子の魅力を再発見し、仲間とともに未来を切り開いていくきっかけになりました。八王子への深い愛情と情熱を背景に、ふたりが描く理想や挑戦がどのような可能性をもたらすのか。新たな物語を紡ぐその挑戦に、ぜひ触れてみてください。

島村悟さんについて

島村悟さん(しまむら さとる)
バーテンダーとしての経歴は学生時代のアルバイトから始まりました。ダイニングバーで経験を積む中、いつの日か本格的なバーのカウンターに立ちたいと考える様に。学生時代に将来自身のお店を構え、オーナーバーテンダーになると決めた私は、20歳になると八王子市中町「THE BAR」故 鈴木重義氏に師事。28歳で独立し「Bar洋酒考」をオープンするとその後3店舗を経営。50歳になる2024年6月、5年の歳月をかけリキュール製造免許を取得。造り手として物造りの情熱を、八王子の地に注ぎたい想いから、八王子craft liqueurを開業致しました。

「八王子craft liqueur」ウェブサイト
https://www.hatiouji-craft-liqueur.com
「八王子craft liqueur」Instagram
https://www.instagram.com/hachiouji.craft.liqueur
「八王子craft liqueur」ご購入はこちらから
https://craftliqueur.base.shop/

クラフトビール構想が生んだつながり

島村悟(以下、島村)
ふなきさんと知り合うきっかけは、
うちのBARのとあるお客様でしたね。

ふなき翔平(以下、ふなき)
そうでしたね。

島村
そのお客様に
「ホップをつかったクラフトリキュールを自分でつくりたい」
「ホップも育ててみたい」とお話したら、
「ふなきさんという人が、
育てたホップでビールをつくりたいと言っていたよ」
と教えていただけました。
タイムリーだと思って、すぐ連絡をお願いしたのが
2023年11月頃でした。

ふなき
そうでしたね。
実際にお会いできたのは、2024年に入ってからでした。

島村
どうしてクラフトビールをつくりたいと思ったんですか?

ふなき
クラフトビールが好きで飲みに行くうちに、
「地元で何かできないかな」と思い始めて。
「じぶんたちでもビールつくりたいね」と話していたけど、
誰がつくるかなかなか決まらずにいました。

だから、「ひよどり山」にある僕の畑をつかって、
自分でビールづくりを始めることにしたんです。

島村
そうやって、地域を巻き込んで進めていくのは、
ふなきさんの得意技ですよね。

ふなき
それが僕のスタイルになっていますね。
何かアイデアが浮かぶと、とにかく周りの人に話すんです。

ビジネスは普通なら、
売り先や契約などを固めてから始めますよね。
でも僕の場合、やりたいことから先に始めちゃうんです。
そうして、徐々に仲間を集めていくんです。
もし仲間が集まらなかったら、
「このアイデアはやめよう」となるし、
集まれば面白くなっていく。

島村
そういう意味では、クラフトビールづくりも
「仲間さがし」の延長だったんですね。

ふなき
そうですね。
島村さんと出会えたことで、新しい展開が生まれました。
いつも「これ、うまくいけばラッキーだな」
くらいの軽い気持ちで始めるんですけど、
結果的に良いご縁が繋がって、
少しずつ進んでいくのが面白いですね。

島村
ふなきさんと話をして、
農業の印象がガラリと変わったんですよ。

ふなきさんは、都市型農業が
「どうあるべきか」で考えていますよね。
農作物を育てるだけでなく
二次産業や三次産業との連携を視野に入れている。
その考え方は目から鱗でした。

それに触発されて私も
農家さんとの連携を模索していくようになって。
自分の経験とも結びつけて
「お酒づくり」がしたいと考えるようになったんです。

ふなき
お互いに「まずやってみよう」というスタンスですね。

島村
ふなきさんの「ホップをつかったお酒をつくりたい」
というアイデアに興味を持ちましたが、
何かが足りない気がしていました。
そんなとき、ふなきさんから
「桑の実を育てている」という話を聞いて
これだ!と直感して。

桑の実のフルーティーな甘みとホップの苦味。
この組み合わせで、甘苦いお酒がつくれると。
そこにハーブも加えることで、
絶妙な味わいに仕上げました。
こうして誕生したのが
「八王子クラフトリキュール」です。
まさに農業と都市が融合したお酒です。

繊維産業の歴史を未来へ

ふなき
僕もそうだったんですけど、
新規就農者って、何もないところからスタートしますよね。
とくに農地が少ない都市部の農業は、
経営が厳しい状況にあります。

だからその地域に何があるか、
どんな歴史があったか、
どんな方がいるかなどを調べて、
そこにしかないストーリーを見つけ出して
農業と結びつけたい。

八王子はもともと繊維産業が栄えた場所で、
桑の木を育てて絹をつくっていた歴史がありますよね。
だけどいまは桑の栽培も少なくなっている。
だから八王子の桑の歴史を再認識して、
桑の実を再び八王子で生産して活用することを
ずっと考えてきました。

島村
八王子の歴史と産業をつなげて、
新しい価値を生み出そうという試みが素晴らしい。

ふなき
八王子は、養蚕や織物が盛んだったことから
「桑都(そうと)」と呼ばれていた。
北条氏照が八王子城を築いて
その後、大久保長安が河川や甲州街道を整備して、
今の八王子の基礎を造り宿場町となった。
そして、桑都の文化は江戸、明治、大正、昭和と栄えた。
そうした歴史があるから
市は「桑都」という言葉を、
また使い始めて盛り上げようとしています。

だけど、いま農家では桑じゃなく葉物野菜とか、
別の野菜づくりに変わっていっていることが
ちょっと寂しいなっていう気持ちもあったんです。

島村
ええ。

ふなき
桑についてひたすら調べていたら、
桑の実を収穫する専用の品種というのが
いくつかあることがわかった。
長野県の上田市も繊維産業が栄えはしたけど、
いまは桑の実をつかって
町おこしをしようとしている事例もあって。
それを参考に八王子に持ってきても、
ストーリーとしてフィットするなと思ったんです。
それで今年から桑を植え始めたわけです。

島村
私もふなきさんといっしょにホップを収穫しましたが、
初めての収穫はどうでした?

ふなき
ホップに関しては、ほとんど知識がなかったので、
島村さんと一緒に収穫までできて助かりました。

ホップって香りが強いもの、苦味が強いものとか
特徴があるじゃないですか。
それぞれの品種が、八王子の地に合うか挑戦でしたよね。
「ザーツ」という品種は
比較的この土地に合っていると思います。
ザーツは強い苦味が特徴的で、
八王子の温暖な気候には
適しているのかもしれないですね。
ザーツ以外の品種はちょっと厳しかったかな。

島村
ザーツは原種に近いですからね。
苦味が強いし、熱にも耐性がある。

ふなき
ホップは、成長がゆっくりだったり、
収穫できる実が小さかったりしますね。
初年度は成果が少なかったので、
来年に期待したいところです。

農業を通じた教育と福祉への広がり

ふなき
桑の実をつかった商品や町おこしの事例もあるし、
桑の木を育てることが地域にとっても
大きな意味を持つと感じています。

例えば、福祉施設や医療機関が、
畑づくりに参入する事例が増えてきているんです。
そういうところにも、
桑づくりにどんどん参入してほしいなって。
学校でも桑の木を育てて、
子どもたちに地域の文化を知ってもらうことで、
地域とのつながりを深めることに、きっとなる。

島村
八王子に住んでいる
自閉症の高校生アーティストsaoriさんが
「八王子クラフトリキュール」のラベルデザインを
手掛けてくれました。
このデザイン、ボールペンをつかって、
なんとフリーハンドで描いてるんです。

ふなき
へー! すごいですね!
デザイン、とても素敵です。

島村
ふなきさんと話す中で
 “農福連携” について考える機会が増えました。

ふなき
農業が福祉とのつながりを持つことで、
より多くの人が関わり、
意義深い活動ができますよね。
障害者だからって、クオリティが低いとか、
比べたらダメだとか、先入観を持つのはもったいない。
健常者だろうが障害を持っている方だろうが、
見せ方ひとつで大きく変わります。

島村
ふなきさんが考える “農福連携” の
メリットってなんですか?

ふなき
農福連携のメリットは、
農業と福祉が互いに「いいところ」を見つけ出す
その過程にあると思います。

よく言われているのは、農作業を軽減できたり、
加工品をつくって六次産業化が進むとか言われますが、
それだけの関係性だと、
農福連携はうまくいかないと思います。
実際、障害者福祉事業所も農業も、
効率的な仕事ができているわけではないんです。

島村
たしかに、そうかもしれませんね。

ふなき
農家としてのメリットはありますが、
作業の分担をしてあげることが必要です。
たとえば、うちでは貸し農園のメンテナンスを
福祉事業所にお願いしています。
ゴミ拾いや石拾いなど、
農機具をつかわない作業が多いんです。
福祉事業所にとっても、
室内作業だけではイライラしてしまったりしますから、
外の空間に出て一定の距離感を持つことが大事です。

島村
外の空間で作業することで、リフレッシュできる。

ふなき
そうなんです。
「福祉事業所はこういうことをしてくれるんだろう」とか、
「農家は人手が欲しいのだろう」といった
互いに勝手なイメージでいると、すぐに関係は悪くなります。
相手の得意分野を理解して、
協力し合いながら進めることが重要だと思います。

八王子が取り戻した自信

ふなき
島村さんがBARに立つ経緯について、
ぜひ教えてもらいたいです。

島村
学生時代からバーテンダーのアルバイトをやっていました。
その時に、尊敬する師匠に出会って。
師匠の元で9年ほど学んで、
自分の店を開くことを決意しました。
師匠は18年ほど前に他界しましたが、
業界内では非常に有名な方でして。
その方の右腕として働きながら修行を重ねて、
ついに27歳で独立することができました。

10年ほど、今とは別の場所でBARを営業していましたが、
12年前に現在の場所に移転して、
新たに酒造会社も立ち上げました。

ふなき
そうだったんですか。はじめて伺いました。
BARを運営される島村さんから見て
八王子という街はどう映っていますか。

島村
八王子って、市街地の中心から少し離れると、
まるで異なるエリアが広がっているんですよ。
それぞれが個性的で、住みやすい場所も多い。
多種多様な場所が点在していて、
歩くだけでも楽しめます。
私、街を歩くのがとても好きなんです。

ふなき
ぼくも、街を歩くのは大好きです。

島村
八王子はかつて立川に押されて
衰退していった時期がありましたよね。
だけど、ここ数年で八王子の名が再評価されて、
とくに飲食業や製造業が「八王子」という名前を
前面に出すようになりました。
この動きは、八王子市民が
自信を取り戻すきっかけにも
なっているんじゃないでしょうか。
その中で、「八王子クラフトリキュール」を立ち上げました。

ふなき
地域活性の一環として、立ち上げたわけですね。

島村
そうですね。
八王子の名前を広め、地元の人々が誇りを持てるような
ムーブメントをつくりたかったんです。

ふなき
素晴らしい!
八王子を訪れる人たちにとっても、
もっと魅力的な街として
認識されるようになるといいですよね。

八王子ホッププロジェクト」が目指す先

ふなき
八王子で獲れるホップをつかって
こうしていきたいというアイデアはお持ちですか?

島村
収穫したものをお酒にすることも大事ですけど、
ホップやお酒に興味を持つコミュニティを
形成することも同じくらい重要だと考えています。
ふなきさんには、コミュニティの中心となる
役割を担ってもらいたいですね。
市内だけでなく市外の人たちも含めて、
誰でも参加できるようなコミュニティ。

ふなき
行政区の枠を超えて、人と人がつながると面白いですよね。
たくさんの人にホップやお酒を楽しんでもらうために、
畑をBARのような空間にして、
夕方から夜にかけてライトアップして
飲めるような場所をつくりたいなと、本気で考えています。

ふなき
じつは、もうひとつ畑を買う予定があるんです。
新しく購入する農地のイメージは、
「磯沼ミルクファーム」「モーモー体験農園」のように、
「お店」をつくる感覚で進めています。

そこでは、入り口にテーブルと椅子が並んで、
オープンテラスのカフェのようなスペースをつくって、
ハウスがある空間にキウイの棚が並ぶような感じです。
ディナーやランチが楽しめる場をつくりたいなって。

千葉県の鴨川に「苗目」という
農業法人が中心となってつくった公園があります。
ここではハーブを中心に栽培していて、
子供たちが笑顔でとても楽しそうに遊べる空間があって、
すごくいいなと思ったんです。
苗目のように収穫したものをその場で食べて楽しみ、
コミュニティが生まれる空間をつくりたい。
島村さんにも、ぜひ協力いただきたいです。

島村
もちろんです!
引き続き、いろいろ企画していきましょう!

(文|平井サトシ)