野生動物の被害をジビエ事業へ
先日、舩木と山梨県富士吉田市にあるジビエセンター【DEAR DEER】に視察へ。
ここは、ふるさと納税寄付を通じて2024年7月にできたばかりの施設になります。
施設は、ジビエの加工室、保管室があり、加工食や軽食を販売する集客機能もあります。
いわゆるジビエの六次産業化のような施設です。
さらにジビエ肉をカットする加工室は、ガラス張りになっていて、外から作業が見え命の大事さを知ることのできる学習機能も携えています(血抜きのプロセスは見られないようです)。
野生動物の被害とジビエセンター
ジビエ事業が注目されているのは、野生動物の被害が年々増加傾向にあるためです。
富士ジビエセンターの看板にも記載がありましたが
近年の農作物被害額が155.6億円にものぼり、その被害の7割がシカ、イノシシ、サルによるもので、農業をやっている私たちにとっても他人事ではありません。
農業、林業の超高齢化で、担い手が少なくなり、さらに農地や山林が荒れ、野生動物が増え被害が拡大。被害が増える事で、農業林業者の生計が成り立たなくなり仕事を辞めてしまうという悪循環に陥るため、根本的な解決方法を模索していく必要がでてきました。
その答えのひとつとして、今回のようなジビエセンターがあります。
地元の猟友会の狩猟や罠で捕獲した動物をジビエセンターに持っていき、そのまま血抜きから加工、カット、保存できるまで行い、ジビエ肉として消費者に提供すること機能がこのジビエセンターには、あります。
人口減少、少子高齢化が進む中で、獣害に悩まされる山村地域はさらに加速度的に増加します。
そして政府は、スマートコンパクトシティ構想によって、人々を地方都市集約していく方向へ進んでいます。そうなれば、さらに山間の山林では野生動物が繁殖し、より農業や林業への被害が拡大してしまうことが予測されています。
こういった被害を未然に防ぐためにも、各地域でのジビエセンターのような機能の施設が求められていきます。
ジビエ事業の課題
野生動物の被害を解決するジビエ事業は、マスコミで報道されることも多く、都会のおしゃれなレストランでジビエが出され、三方よしの仕組みの様に見えます。
しかし、実際にジビエ事業をやるにはいくつかの課題が存在しています。
例えば
・いつ取れるか予測しづらく安定供給が難しい
・血抜きやカット、加工などの技術の練度で質が大きく変わる
・許可が厳しく、加工施設の建設費が高い
・獣の強烈なにおいがあるため、近隣住民の反対にあいやすい
などがあります。
しかし、ジビエセンターのような施設がないと、地域の獣害が拡がり
また個人の趣味の範疇で、衛生管理が杜撰なまま、ジビエ肉を食す人達も出てきます。
そのため、ジビエセンターの機能は、公共性の高い施設としての役割を持ちます。
地域の行政と民間組織が一体となりながら進めていく案件だと考えます。
東京都で衰退する家畜業
今回の野生動物の被害は、東京でも起きています。
多摩地域の山間地域では、鹿、イノシシ、サルなどの被害が多発しており、たまに市街地域まで降りてきた事例もあります。最近では、ツキノワグマの市街での目撃情報もあったことは記憶に新しいと思います。
こういった野生動物をジビエにするために、奥多摩市、青梅市、檜原村に食肉処理場があり、仕留めた鹿やイノシシをジビエ肉へと加工する場所があります。
私が住む八王子にもかつて食肉処理場がありました。
八王子は、八王子食肉処理場として1936 年から 2012 年まで八王子市の中心部にあり、その間、八王子で取れた鹿やイノシシは、その食肉処理場で処理されていました。
しかし、現在において食肉処理場は閉鎖になり、八王子市で鹿やイノシシがとれたとしても、隣接する市に移動するまでに、血抜きが間に合わず、焼却処理をせざるを得ない状況になっています。
食肉処理場がなぜ閉鎖になったかというと、採算があわないためです。
一時期は、開発された東京産の豚「TOKYO X」の導入により、屠殺する家畜の頭数が上がったこともありましたが、東京の家畜産業が衰退していったため、採算が取れずに閉鎖へ。
処理場を閉鎖したことにより、東京の家畜業の衰退は拍車がかかり、東京都では2021年時点で、肉牛農家は23件、養豚農家は8件に激減する結果になってしまいました。
東京の肉用牛の飼養頭数及び飼育農家数の推移(東京都産業労働局より抜粋)
東京の豚の飼養頭数及び飼養農家数の推移(東京都産業労働局より抜粋)
今回、東京都における家畜業の復興と野生動物の処理とは別問題のため、今回は家畜業については言及せずに、野生動物の処理(ジビエ肉)についてのみ言及していきたと思います。
地方の事例から八王子市のジビエ事業考える
やはり野生動物の被害を解決する糸口として、最初に紹介したような山梨県のジビエセンターのような機能が必要だと考えています。
ただ、以前建てられていた家畜業のための八王子食肉処理センターの規模ではなく、ジビエの為の小規模な食肉処理施設が必要となります。
施設は、目的の用途を明確に分けて建てる必要があります。
実際に各地域の事例では、富士ジビエセンターのような小規模な施設が多く、同じ山梨県の小菅村でも道の駅に隣接された小菅村ジビエ解体処理施設があります。
こちらは公設民営の仕組みで、運営を株式会社boonboonが請け負っており、鹿の捕獲や処理だけに留まらず、自然体験ガイド、森林調査、野生動物調査などの事業も幅広く行っています。
実際に現場で撮影した小菅村ジビエ解体処理施設
各地域でも運営の課題がありながらも、小規模の設備の中で公設民営などの形で進められています。
そういった事例から、まずは東京都や市の行政が野生動物のための食肉処理場(ジビエセンター)の施設を作っていけるよう進めていきたい。
さらに施設ができる以上に重要なものは、持続可能な状態家で運営できるかという点。
一定の収益性が見えなければ、八王子食肉処理センターと同じような結末になってしまいます。
収益性を高めるには、まずは経費を極力かけないことが必要です。
例えば
・設備規模も、管理コストを減らすために最低限の規模で済ませる
・ハンターたちで組合を作り、ネットを使ったシェアリングエコノミーの利用体制
・仲介マージンが極力発生しないように、組合メンバーのひとり一人が捕獲から加工保存までを一貫してできるようにすること、もしくは研修できるカリキュラムを作ること
などが考えられます。
次に売上を高めることです。
ジビエ肉の単価を高くすることもひとつの手段ですが、それよりも総合的なアプローチから収入源を増やすことだと近道だと考えます。
富士ジビエセンターの場合は、併設して加工処理を学ぶためのエリアや加工品、飲食ができるスペースがありました。
それ以外にも狩猟体験やジビエBBQイベント、工芸体験、毛皮から作る皮なめし体験など狩猟に関わる体験サービスの提供も考えられます。
都心から近くで、ジビエ関連の体験ができることは極めて少ないため、適切な情報発信さえできていれば、集客することは難しくないと感じています。
以上のようなアプローチで、東京でもジビエ関連の事業が拡がると考えています。
もちろん、実際には施設の場所や集客、販路、人材育成など多くの課題に直面すると思いますが、野生動物の被害の拡大規模を考えるのであれば、必ずやるべき仕組みであると確信しています。
まずは、ジビエ肉の食肉処理場の建設を主張し続けたいと思います。
共感していただける方は、ぜひ一緒に声を上げていただけますとありがたいです。
【文責 一般社団法人畑会 代表 山田正勝】