持続可能な農業公園を立ち上げた農家のお話 後編 ~ 経営戦略について ~
【前回と前々回の説明】
農業法人苗目さんは
行政や補助金などのサポートがほとんど無い状態で農業公園の運営が、なぜできているのか。
また事業性の低いと思われる環境保全の活動が、なぜできているのか。
その基盤には、しっかりとした事業戦略があると感じました。
今回は、社会活動を支えるためのビジネスの部分について掘り下げたいと思います。
私の分析として2の大きな戦略があると感じました。
※以下は、私が井上さんから聞いた話をもとに考察した話となります。
井上さんが直接、お話したことではないので、誤解がないようお願いします。
戦略① 社会性の事業と収益性の事業を明確に分け、連動させる
まず社会性のある事業と収益性の事業を明確に分けるということ。
多くの方々が農業を通じて社会を良くしたいと思い社会性の高い農業の事業に挑戦されます。
例えば農福連携は、社会性の高い事業の一つです。
それ自体は悪くないのですが、社会性のある事業だけを続けていくと
資金面が厳しくなってしまい、事業の途中から資金が不足してしまい
継続が難しくなってしまいます。
もし事業資金が不足したからと言って
所得の低い人たちからも少しずつ求めてしまうと
信用やイメージが大きく損なわれるリスクがあります。
今回の苗目さんの場合だと農業公園の入場がタダをしていたものを
仮に、入場料100円に設定することにします。
そうなると
「結局、金かよ!」と勘違いされ、人が集まらない場所になってしまいます。
※少額のお金を取る戦略のすべてがダメな訳ではないです
そのため、社会性のある事業とは別に収益性のある事業を作り明確に分けて
それぞれの事業を並列で進める必要があります。
混ぜてしまうと、対象となる顧客や戦略がぶれてしまい混乱してしまうからです。
ここでいうと、まずは事業性のある事業を作ることが先です。
苗目さんも別の収益事業から始め
その中で、今回のような社会性のある事業に挑戦されていました。
次に大事なステップとして分離したものを収益性の事業と連携させます。
社会性のある事業は多くの市民、企業、地域の行政などに
広告費をかけずに情報発信ができるようになります。
知ってもらうことで、応援してくれる人を増やすわけです。
結果として、顧客になったり、ファンだったり、スポンサーになる可能性がグッとあがるわけです。
実際、私たちは井上さんの会社の存在を知らずに
農業公園を入口にして井上さんの会社を知ることになりました。
単純にハーブやエディブルフラワーの生産者は日本中にたくさんいるため
農業公園など公共性が高いものや珍しい活動をすること注目を集める必要があります。
それを意図してやっているかは分かりませんが
結果として苗目さんでは、いろんな企業からの支援を受け、顧客にもなっています。
加工事業や古民家の飲食業も、単体で事業を行うのは難しく
なかなか安定した売上が確保しづらいのですが
社会性の高い事業を通じてビジョンやコンセプトを伝えファンを獲得し
加工品や飲食などを総合的に利用してもらうことで顧客単価を上げています。
今後は宿泊サービスや法人の研修サービスなどの
複合的な商品やサービスを組み合わせながら展開されることが予想されます。
社会性の事業においては、利益を取ることは極力考えず
それらを呼び水に、収益性のある事業を結び付けていきます。
これが農業法人苗目さんの大きな戦略の一つだと思います。
農に関わる事業においては収益性が大事か、社会性(個人で言えばはやりがい)が大事か
という議論をよく聞きますが、農業においては別で分けてつなげることが最適解だと思っています。
補足ですが前回紹介をしたアグロフォレストリーの事業については
収益性と社会性の両面を持つ性質をもつかもしれませんが
安定した収益を出すには、時間がかかるために
やはり別の収益性の事業を確保しながら進めていく必要があります。
農業法人苗目さんの場合は、ハウスで栽培しているハーブやエディブルフラワーの生産販売や
井上さんが以前メインで行っていた事業(後述)で収益性を確保しながら
社会性の高い事業への果敢に挑戦されていると推測できます。
戦略② 農のライフスタイルとデザインの融合
次に戦略①の収益性をより深めて強化していく戦略になります。
井上さんの事業のコアが何をかと勝手に考えました。
結論から言えば
【農のライフスタイルをデザインすること】
だと感じました。
まず「農のライフスタイル」について説明します。
農の本質的な価値としてライフスタイル(生き方)があります。
日々の生活を自然の中で過ごすこと、身体を動かすこと、土や植物に触れること、新鮮なおいしいものを食べること、大事な人たちと過ごすこと など
農に関わることで、そういった生き方を享受することができます。
※「農業」の話ではなく、「農」の話です
そこにさらに環境保全などの活動も重なり、単純なライフスタイルだけでなく社会的意義も含む生き方の価値にまで昇華されています。
そして、その「農のライフスタイル」に、デザインの価値が追加されます。
井上さんが農業法人を立ち上げる前の専門の仕事が
園芸のデザイナーで、イベントや法人の植物のディスプレイなどに携わっていたそうです。
現在でも、依頼があれば一部対応されているそうです。
そういったお仕事をされていたからか
井上さんの手掛ける空間は、他の農園と違っておしゃれさや美しさがちりばめられています。
農園というよりガーデニングされた空間に近いです。
また井上さんの会社はハーブやエディブルフラワーの生産販売を行っていますが
ただ農作物を販売しているのではなく、そこに芸術的な付加価値が付いています。
こういった井上さんの美的センスが農業法人苗目さんのコアの部分だと思います。
私たちも、農のライフスタイルについて追及し、事業としてのサービスを展開しています。
(研修事業や体験農園などの事業)
しかし、それらを美しくしたりやおしゃれにしたりすることは、なかなかできていません。
一般の農家さんも、学校などでしっかり学ばない限りは、できる芸当ではありません。
厳密には、センスと同時に、それを実際に表現や実行できる力が必要になります。
考えている人は多いですが、それを実行できる人は稀です。
仮に井上さんができない場合でも専門のメンバーと組むことで、それを実現可能にしています。
苗目さんのHPを見ると、各分野の専門の人達がいて
チームで井上さんの目指している世界を作っているのが、とても素敵でした。
農業ビジネスをするにあたっては、こういったデザインする力が必要になります。
加工品のパッケージや商品のPOPを作るときでも、デザイン力があるかないかで売上が大きく変わることはよくあります。またネットの情報発信では、さらにその力が求められます。
ほとんどの人が井上さんのようなセンスが持っていませんが
センスがある人を模倣したり、誰かに委託することで、ある程度解決できます。
常日頃から、そういった意識を持ちながら、商品やサービスの付加価値を高めることで収益性の高い農業ビジネスを目指していきましょう!
以上が、農業法人 苗目さんの記事になります。
本来であれば、一回の投稿で終わらせる予定でしたが、想定以上に気づきが多い視察でしたので、3回に分けてお話をさせていただきました。
それでも、法人や井上さんの魅力について、まだまだ表現できていないなと感じていますので、もしご興味があれば、HPやSNSをご覧になってください。
また可能であれば直接現場に足を運んでみてはいかがでしょうか。
これからさらに発展される事は間違いないので、今のうちに繋がっておくのもよいかと思います。
農業法人苗目さんには、こらからの農業の未来を感じることができました。
また伺わせていただきます!
【参考】農業法人 苗目 HP https://naeme.farm/