コラム

テクノロジーとマーケティングの力で「農福連携」への挑戦

更新日:2024年6月23日

先日、八王子市で農福連携している「エシカルベジタブル」さんへ訪問しました。
立ちあげたのは、代表の渡辺章子さん。
農を通じて、就労移行支援や自立支援を行っている事業所で、立ち上げてちょうど3年目になります。
現場に訪問し、お話を聞かせていただきました。

お話をしているエシカルベジタブルの渡辺さん

渡辺さんは、私が研修事業「東京キャリアファーム」を立ち上げた時の第1号の研修生でもあります。
私が教えたことは、ほとんど無いですが(笑)。
あれよあれよという間に、法人を立ち上げ、八王子市認定農業者になり、農地を借りて活動されています。

渡辺さんの以前のお仕事は大手の銀行員。
支店長なども務めあげたバリバリお仕事ができる方。
その後、銀行の仕事を退職。
親族に障がいを持つ方がいることや農業に関心があったことから、退職し、農福連携の事業を立ち上げることを検討されていました。
そんな時に私が渡辺さんとお会いし、相談に乗らせていただきました。
最初は、福祉も農業も業界の経験も無い方が脱サラして、うまくやっていける事業ではないと個人的には思っていました。
しかし、じっくり話を聞いてみると、最初の構想の時点で具体的な事業プランや考え方、準備資金、補助金制度の理解、有力なコネクションをもっていることを知り、可能性があるかもしれないと感じました。
その後、いろんな方の紹介や農家の現場研修などを経て、一年ちょっとという驚異的なスピードで事業を立ち上げることに。

渡辺さんの福祉への想い

そんな行動の原動力には、渡辺さんの福祉への強い想いがありました。

お会いした初期の頃から、障がい者の方の個々の特性を踏まえた支援を丁寧に行いたいこと、そして事前に学ばれていることも聞いていました。
その特性に応じた農作業ができるようにと「農福連携技術支援者」という農水省認定の研修も受講されていました。

当日、現場の話を聞いた際も、利用者さんの特性や課題について細かくお話をしていただき、個々に対して、それぞれの支援方法を語られていました。

最初は志が高くても、事業を行っていくうちに給付金をもらうがための形式的な支援になっていく事業所を私自身、いくつか見てきました。
しかし、エシカルベジタブルさんは、障がい者の方を就労移行や自立ができるようにと最初の目的からブレずに、3年間まっすぐに支援されていることに感銘を受けました。

さらに農業という要素を入れた「農福連携」に取り組む姿勢に、より覚悟を感じます。

農福連携の理想と現実のギャップ

農福連携について解説していませんでしたので、簡単に紹介します。
厚生労働省の説明によると

農福連携とは
農業と福祉の連携であり、障害者が農業分野での活躍を通じ、自信や生きがいを持って社会 参画を実現していく取組。 農福連携の取組は、障害者の就労や生きがい等の場の創出となるだけでなく、農業就業人口の減少や 高齢化が進む農業分野において、新たな働き手の確保につながるもの。

とあります。

画像は公益財団法人日本ケアフィット共育機構より

つまり
「福祉と農業それぞれの弱みを補完でき、関係者の自信や生きがいが創出できる」
それが農福連携の魅力や可能性でもあります。

ただし、それは理想論といえるかもしれません・・

農業の業界も福祉の業界も10年以上経験している私としては、どちらも単体でやることだけでも難しいのに、それらを一緒にする事業をやること自体さらに難易度が上がるのを感じています。

スタッフの力量を求められるものが大きく
農業側と福祉側の両方のスキル、経験、視点が無いと農福連携は機能しません。
また人間力、コミュニケーション能力、事務処理能力、そして忍耐力などの基盤となる力が必要となります。
実際に、農福連携の現場では、現場スタッフが疲労しており、多くの職員が退職を繰り返しているのが現状です。
また障がいを持つ利用者も、安定した労働ができない、また生産性が低いことで、苦しんでいる方もいます。

農福連携の関係者は、はたして幸せや やりがいを感じているのか。
農福連携そのものの意義を問う声も挙がっているのも確かです。
 
そういった理想と現実のギャップが農福連携には存在します。

テクノロジーの導入による負担軽減

それほど難しいといわれる農福連携において、渡辺さんはどういう戦略で臨もうとしているのか。
その戦略も最初の時点から話をされていました。
 
まず一つは、テクノロジーを最大限使うこと。

農業の難しい面に生産性の低い農作業があります。
草取り、収穫、調整、梱包など生産性は低いけれど避けられない重要な作業が膨大にあります。
ただ賃金が低い為、誰もやりたがろうとはしません。
いわんや精神や身体が不安定な利用者の方々にこれらを強いることは農福連携の目的に合致しません。
そのためにやるべきは、作業の負担を大幅に減らす機械化や自動化になります。
 
例えば施設の2階では水耕栽培に取り組まれており、自動制御の要素を入れながらできる限り自動化に取り組んでいます。

マニュアルや工程表なども作り、誰でも利用できるような見える化の工夫もされています。
それ以外にも加工に使うための機械、保冷庫なども導入しながら、付加価値を高めるアプローチもされています。

設備投資の初期コストについては、農福連携の補助金制度などをうまく使いながら、やりくりをしています。
前職の銀行員のキャリアが充分活かされています。

マーケティングの視点による単価UP

もうひとつの戦略は、マーケティングの視点。
一般のビジネスでは当たり前のことかも知れませんが、農業や福祉においては軽視されがちな視点でもあります。
農業は、単価を安くすれば売れるため、単価を上げるという考えに放棄しがちですし
福祉は、「お涙ちょうだい」的な販売や身内に買ってもらうようなやり方が多く
マーケティングの視点を失いやすくなる業界でもあります。
 
渡辺さんは、そういった風潮を排すためにマーケティングにも力を入れています。
まず販売先を、所得層の高い都心部に住む人たちや法人へターゲットを向けています。
過去に仕事でつながった大企業への営業をやっています。
企業へ直接営業する農家は、ほぼいない為、大きなアドバンテージになります。

作る農作物についても、スーパーで販売される農作物は極力避け
色付き野菜、珍しい野菜などを栽培しています。

商品を差別化することにより、他の農家と競争をしないことを意識しています。
そして農作物の販売以外にもリースなどの小物や真空パックの加工などにも力をいれ、単価をあげる取組みをされています。

商品開発の詳細は控えますが、相手のニーズに沿って商品を模索されています。

また研修や体験などのサービス業も検討されており、総合的な売上を見込むための戦略も想定されています。
この点については、私たちと一緒に事業を展開する可能性もあります。
その機会がありましたら、またご紹介したいと思います。

他にもいろんなことをお考えですが
以上が大きな2つの戦略だと思います。
とはいえ、やはり農福連携の運営は難しいことも事実で、これからも試行錯誤を繰り返されるかと思います。
ただ戦略の方向性は正しいと思いますので、いずれエシカルベジタブルさんも大きく注目されていくと感じています。
私は、渡辺さんの事業立ち上げ時点からの理想を捨てず、現場で戦っている一貫した姿に尊敬の念を抱かずにはいられません。
誰もが進んで取り組もうとしない農福連携について経営者として取り組んでいます。

農福連携に携わりたい方は、エシカルベジタブルさんにぜひ注目してみてください!

最後に渡辺さんと参加メンバーで記念写真

参照:エシカルベジタブルHP  https://ethivege.com/

文責:一般社団法人 畑会 山田正勝